TABI MEMO

人は旅をしないと駄目になってしまう ~Mozart~

【玖】 難民からエリートへ

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大統領令:『シリア難民の受け入れを120日凍結。その他、テロ・リスクが高い7か国の入国を90日間凍結。』

先週末のトランプ移民政策が話題になりました。もともと公約に含まれていたので、何を今更と思うところもあるのですが、皆まさか本当にやるとは思っていなかったのかもしれません。移民政策が正解なのか、間違っているのか、分かりません。移民の制限をつけているという面では、もともと日本の方がつけていますし、そのお陰で世界有数の安全な国になっているという側面もあると思います。一方でアメリカの成長は移民なくして有り得なかったというのも事実だと思いますし、その人口増が爆発的にアメリカの経済を押し上げてきたのも事実だと思います。

実際、今回の移民政策には多数の米国企業が反発を示しており、特にテクノロジー企業の反発が目立ちます。反移民政策はシリコンバレーを滅ぼすとも言われ、グーグル、アマゾン、フェイスブック、ネットフリックス等トップ企業のCEOも反発を顕にしています。なぜなら多くのテクノロジー企業がエリート移民や難民の社員がいて、会社の根幹を成しているからです。アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏もシリア出身の移民の子で、グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリン氏も旧ソ連から両親と共に逃れて6歳の時にアメリカに来ました。

それで今回のニュースで思い出したのが、グーグルで働くキューバ人の知り合いの話です。当時聞いた時は驚愕したのを覚えています。

カルロス(仮名)はキューバの難民でした。2012年にアメリカで難民申請をします。たったの5年前です。

カルロスは母親1人と兄が1人いました。父親は小さい時に離婚したようです。母親は医者だったようで、良く海外に出張していたようです。ある日、母親が「これからメキシコに出張してくる」と言い残し、家を出ました。その日の夜、母親から電話があり、「もう帰らない、メキシコに亡命する」と言われます。小さかったカルロスは困惑して、「なんで家を出る前に言ってくれなかったの?」と泣きます。万一、実行前に誰かに話してそれがバレたら亡命が頓挫するからだそうです、「ごめんね」と母親も泣きます。それからカルロスと兄は自分達も亡命できるよう、パソコンのスキルを磨きます。勉強が奏功し、成人すると彼らはIT系の会社に雇ってもらい、メキシコ出張への切符を手に入れることが出来ました。そこで彼らも無事メキシコに亡命でき、母親と合流します。

ここからも冒険は続きます。3人は最終的にはアメリカの難民になりたいのです。キューバ市民はアメリカの土地に触った瞬間難民として申請出来ます。米国はキューバから脱出した難民に対し、「ウエット・フット・ドライ・フット」と呼ばれる政策を取ってきました。難民を海上で保護した場合はウエット・フット(濡れた足)として送還するが、米陸地にたどり着けばドライ・フット(乾いた足)として滞在を認めるという優遇策です。この政策によって何が良く行われるかというと、キューバからゴムボートでカリブ海を渡り、アメリカのフロリダに上陸しようとする作戦です。しかし、もちろんアメリカの海上警備隊がいて、リアル鬼ごっこが始まります。海上警備隊は陸に上がる前に捕獲してキューバに帰すことが目的、キューバ人は陸にタッチすることが目的。タッチした時点で警備隊は何も出来ず、キューバ人は難民として扱われます。カルロスの叔母がこの作戦を実行して成功したようですが、途中であまりに海に浮かぶ死人を見たためにマイアミで精神病に陥ってしまったようです。

さて、カルロス率いる3人は別の方法を取ります。メキシコとアメリカの国境を陸で渡る決断をします。(普通キューバ人はメキシコへの旅行ができないため、この手段は仕事の出張で来れた親子3人の特権です。良くあるのは同じ共産主義国のエクアドルへ飛んでからのメキシコ国境を目指す手段ですが、そもそも飛行機で9時間の道程をアマゾンを渡ったりして走らないといけないので達成困難です。)しかし、この3人の手段にもリスクがあり、検問所に行ってキューバのパスポートを見せれば難民になれるのですが、メキシコ側国境付近にはそのパスポート狙いのマフィアが存在します。メキシコ人はアメリカの陸を踏んでも難民になれないため、キューバ人だとバレるとその場で殺され、パスポートが闇市場で取引される事になる訳です。なのでカルロス一家は細心の注意で服を選び、見た目はメキシコ人の格好で、死ぬ覚悟で国境検問所に行きます。そこでドキドキ検問所を無事通過した親子はアメリカの難民申請をして1年で永住権を得る事になります。申請している間、仕事を探す訳ですが、やはり兄弟はパソコンの技術を生かし、テクノロジー関連企業を受けます。ご存知の方も多いかもしれませんが、グーグルはその場でコーディングをさせて人材を選びます。多くのテック企業もその方法を使っていますが、要は技術があれば、国籍、学歴問わず入れる訳です。コーディングの世界大会の入賞者にグーグルの人事が声をかけるのは有名な話です。兄の方も証券会社のシステムエンジニアとして職をもらったようで、絵に描いたようなアメリカン・ドリーム実現です。ただ、詳細を聞くと、母親との別れ、死ぬ覚悟等、日本では考えられない辛い経験をしております。

ここで思うのは、こういうまさに死に物狂いでアメリカに来て仕事をしている人達の気概には私は勝てないんじゃないかと。スタンフォード大のティナ・シーリグ氏の著書『Clash of Creativity』でも書いていますが、クリエイティビティの起爆剤は姿勢です。何かを成し遂げるためにはその姿勢・やる気・気概がやはり重要で、こういうカルロスのような人達に勝てるのだろうかと考えさせられます。

話はそれましたが、結論、優秀なやる気を持った人材を集めるためにも、アメリカには移民・難民も必要だと思います。ただ、確かにトランプ大統領の言い分も一理あり、不法入国等の対策はした方が良いのだと思います。

 

以上、ジローでした。